私が合気道をやり始めたのは体を壊したからなのだ。
今から40年以上前、当時の会社は高度成長期の中にあり仕事であれば無理難題も当たり前で今言うとムチャクチャだった。
夜遅くまで会社で仕事をし、会議室のソファアで寝て、そのまま翌日出張するといったことも珍しくなかった。
私も会社に入って、2,3年で目若かったということもあり頑張っていた。
しかしあるとき目の前が暗くなり会社で倒れた。
それ以降、体の不調が続き毎月一度はおかしくなった。
症状は眩暈がし、胃痙攣のようになり、胃液を吐き出し寝込む、そして目が覚めると猛烈に目と頭の奥が痛くなり、そのあと頭の中がボーとする。
体力的な問題というより精神的な問題だと思った。
心と体がバラバラという思いが常にあった。
そして病院周り、ヨガや気功といった東洋的健康法を試し、宗教もトライした。
しかしまったく良くならなかった。
「溺れるもの藁をもすがる」といったくらい辛かった。
あのとき体が治るならオウム真理教でも入っていただろうが、幸いそんなことはなかった。
本屋で立ち読みしていたとき、合気道が体に良いと書いてあったのを見てすぐに家から通える自由が丘にある道場を訪ねた。
当時はそれほど会員もいなかったので数人で稽古をしていた。
最初は足捌き、それから受身。次に技らしきもの。
新人でしかも体を壊していたのだからゆっくりしかできない。
体を壊していたからだろうが、中学生や中年のおばさんに少し押されたり、手をひねられたりすると枯れ木が折れるように「バタン」と倒れた。
そして起き上がるのもとても難渋した。
先生に「早く立ち上がって」と注意されていた。
他にも「力を抜きなさい」とか「相手に合わせなさい」と言われていた。
ということは、逆に自分勝手に相手を無視して力任せに稽古をしていたということなのだろう。
しかしひと月もしないうちに体に変化が起こりだした。
稽古が終わると体が軽くなっていた。
歩くときも足が地に着いている実感があった。
そして稽古をするのが楽しくなった。
何故だかわからないが体がウキウキしているようだった。
そして稽古が終わったら体が温かくなり軽くなっていた。
当時はその理由はわからなかったが、今考えると体全体に気が流れ始めたのだろう。
半年も経つと、それまで「バタン」と倒れていたのが、ゆっくりと腰から畳につけるようになった。体に柔軟性が戻ってきたようだった。
今考えてみると、若いから「一生懸命、全力で」という気持ちで仕事をしていたが、仕事に納得できなくても無理をしてやっていた。どちらかというと「やってはいけない仕事の仕方」だったと思う。
それを会社全体でやっているのだから「ダメダ」とは入社2,3年の新人が言えるわけもない。今から40年前の高度経済成長期であり、自分の性格からいっても証券会社や商社のような強引な仕事をするようなことは出来ないだろうと思って、給料は安いがまともに思えた電気メーカーに就職したのだが・・・。
体調が落ち着いてくると心にもゆとりが出てくるようになった。
何故倒れ、そして回復したのかと理由を考えてみると、合気道は相手の呼吸に合わせるということを重視している。
相手の呼吸に合わせ「気」が流れ、その結果からだの中でフリーズしていた気や血液などが流れ出したのではないかと考えている。
稽古をしていると体がウキウキし、その後体が軽くなるという現象はフリーズしていた体の筋肉の隅々にまで血液がながれ、体を活性化したからではないかと思っている。
その後も続け体調はよくなり、40歳を過ぎるころからはもっぱらストレスの発散に役立った。
イライラしていても1時間稽古をするとスッキリした。
そしてその後のビールが美味しかった。
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