JICA合気道部は最近日本人の稽古人ばかりですが、以前はJICAに研修に来る外国人が必ず何名か参加していました。
その中にはそれなりに経験した者もいれば全くの初心者もいました。
今から20年くらい前の事です。
指導者の模範演武の後、稽古はお互いに挨拶をしてから始めますが、そのとき私の相手は座ったままでした。・・・というよりそのように見えました。
私は通常の稽古では受身を取りますので、メガネをはずしています。
従って目の前の人でも細かいところはぼやけてみえません。
そのときは別に座り技の稽古をしているわけではないので「プリーズ、スタンド アップ」と言いましたが、その人は首を振りました。
何故かわからないので、近づきました。
すると、両脚の膝関節から下がありませんでした。
あせって「オーケー、オーケー」といってしゃがみました。
そして今度は稽古をしようと手を出したとき、その人の両腕の手首から先がない事に気づきました。
一瞬どうしていいのかわからなくなりましたが、今度はその人は笑いながら「ファイト」と大きな声を出しました。
私は慌ててその人の二の腕を掴み普通のように稽古を始めました。
大変やりづらかったですが、その方は稽古を楽しんでくれたようです。
終わった後、彼はチリから来た人で、日本の武道が好きで空手もやっていると片言の英語で話しました。そして両手、両脚を失ったのは爆弾でやられたからだと説明してくれました。
我々の知らないところではとんでもない事が起こっているんだと感じました。
その人と稽古をしているときも、終わった後も暫くドキドキと心臓が波打っていました。
驚きとどう対応していいいのかわからなかったからだと思います。
自分が同じ境遇にたったとき、とてもではないがあれほど前向きになれるとは思えませんでしたし、チリからはるばるJICAの研修に来るような気持ちにはなれません。
兎に角驚きました。
彼の顔は殆ど見ていなかったので覚えていませんが、彼の元気な声は今でも耳の中に残っています。多分顔を見ることは心の中で遠慮したのだと思いますが・・・それは無意味な遠慮だったと今では思います。
もっとも今の私なら当時よりかなり合気道に対する考えも変り、技量も上がっているので少しはプラスになるようなアドバイスや稽古をすることが出来たと思います。
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